迷惑行為防止条例の誤解 人にカメラを向けたら犯罪になるわけでない。ミスリードを意図的に与えるマスコミ報道

2017年4月20日大阪府の改正迷惑防止条例が施行されました。その内容は、盗撮行為として規制する場所の定義の拡大と、カメラを向けるという盗撮の未遂段階行為を処罰するという内容です。

報道では、「カメラを向けただけで盗撮となる!」と勘違いを誘発する記載をしていますが、そもそも盗撮目的でカメラを向ける行為は既にほとんどの都道府県の条例で処罰の対象済みですし、大阪府がそれに追随しただけのことです。そして重要なミスリード誘発として「カメラを向ける」だけではなく「盗撮目的で」「カメラを向ける」という重要な犯罪構成要件を抜かしています。

「カメラを向けだだけで盗撮となる」という書き方が法律の知識の無い一般人に誤解を誘発する不正確すぎる記載なので、「犯罪としての盗撮」とは何なのかを正確に掘り下げていきます。

 

そもそも「人の盗撮」はそれだけでは犯罪ではない。犯罪となる「盗撮」の定義。

盗撮を一般人が議論すると必ず間違った話になる。それは、人々個人が思っている盗撮概念で勝手議論するからだろう。一般人が普通に盗撮というと、それは勝手に写真を撮られること、無断撮影ということになるだろう。

だが事件でよく報道されている「盗撮で逮捕されました」の「盗撮」は無断撮影のことではない。無断は無断なのだが、それ自体(許可を取っていないこと)が問題(刑事的に違法)というわけではない。他にも重要な要件が多数加わっている。

風景を撮って、そこに通行人が写ったとしても、それは迷惑防止条例で定義されている「盗撮」ではない。したがって無断で人を結果的に撮ったとしても盗撮犯にはならないし、逮捕もされないのである。

では盗撮で逮捕されているのはなぜなのか?

くれぐれも言っておきますが刑法にも迷惑行為防止条例にも「盗撮罪」は規定されていません。無断で撮影したから「盗撮罪」だ!なんて規定はどこにもないのです。勘違いしている人が多すぎますが、マスコミが毎回「盗撮で逮捕されました!」というから「盗撮が犯罪だ!」と間違った知識が刷り込まれるんでしょうね。

正確には、

「逮捕される盗撮」=「無断撮影」ではないということです。

事実を正確に伝えず誤解を招く報道用語を用いるマスコミや関係当局はおかしいですね。無駄なトラブルを増やすだけなのに。

 

犯罪としての「盗撮」

(犯罪として)「盗撮」として取り締まられている行為とは、条例を制定している各都道府県によって若干の違いはありますが、概ね下記の(イ)(ロ)(ハ)全てに該当する行為になります。刑法の大原則である罪刑法定主義の観点からは、何が盗撮行為として取り締まられているかは法律(条例)できちんと規定されているのです。

(イ)行為の態様: 人を著しく羞恥させる、又は人に不安を覚えさせる
(ロ)撮影の対象:通常衣類で隠されている下着または身体
(ハ)行為:撮影する、カメラを向ける、またはカメラを設置する

まず(ロ)盗撮の撮影対象が衣類で隠されている場所、つまり下着や衣服で隠されている肌部分ということです。街中を歩いている人を撮ってしまってもまず(犯罪としての)盗撮の対象には該当しません。(例外については後述)。

次に「イ」の行為態様とは、当該撮影行為の様子が一般人から見てどう評価される行為かということです。街中で景色などを撮影している態様・様子は、一般人の立場から考えて人を著しく羞恥させる行為。人に不安を覚えさせる行為ではありません。

常に女性にカメラを向けているなら「不安を覚えさせる」に該当するでしょう。(ロ)には該当しませんが。

※一応補足しておきますが、執拗に女性の容姿を狙って撮っていれば、盗撮行為では捕まらなくても「卑猥な行為・言動」や「脅迫」に認定され犯罪となる可能性もありますし、それ以前にまず誰かに通報されます。警官が来て職質されたり署に任意同行を促されたりでしょう、逮捕されなくても一定時間事実上の拘束を受けます。さらに正当な理由無く他人の容姿を撮影しているので民事上の不法行為(民法709条)「肖像権侵害」は100%成立します。(※念のため書いておきますが、風景を撮って人が写った程度の場合は、肖像権の侵害といっても、悪質性は無く受忍限度内のものと裁判官に判断されるでしょう)。

 

女性を衣服の上から撮影していて有罪になったケースがあるけど?

女性の衣服を付けた姿を無断撮影しても、上記の(ロ)の要件に該当しませんが、有罪となった最高裁判例があります。この判例の上辺だけを聞いて、「ほら、衣服の姿を撮影しても盗撮犯罪だ!」と考える方が多いでしょう。ネットでのトピックスでもわざと上辺だけを記事タイトルにしているおバカさんか確信犯もいますが、残念ながらそうではありません。

この事例は、女性の臀部を執拗に撮影していた事例であって単に女性の容姿を無断撮影して有罪となった事件ではありません。しかも、いわゆる盗撮犯罪で捕まったのではありません。

容疑者がショッピングセンターで女性の臀部を撮影していた行為を、盗撮行為としてではなく、迷惑行為防止条例の取り締まっている「卑猥な言動」に該当すると事実認定して有罪としています。

まあ、女性の臀部(お尻)を必死に盗撮していたこの男は、一般国民感情的には盗撮罪の有罪でなんら問題ないですけどね。現行の法律(条例)の法的構成上はそうなったということです。

 

無断で撮影されたくない利益・自由は保護されないのか?

現行法律上は、単に人の容姿を無断で撮ってしまった、というだけでは犯罪にはなりません。もちろん意図的に他人を無断撮影する悪質な行為は、仮に条例の盗撮行為の処罰の間隙をぬったとしても、他の違法行為に該当して犯罪となる場合がほとんどですが。

民事上の不法行為は別問題

以上は、刑事上の話ですので、犯罪にならないにしても民事上の不法行為(民法709条)として損害賠償を負う場合はあります。民事上損害賠償が請求されるかどうか、当該撮影行為の態様や侵害利益(撮られたくない利益・肖像権)の大小などを勘案して最終的には裁判官が判断することになります。無断だから不法と一律にはなりません。あくまで無断撮影となった際の状況次第です。

社会受忍限度論

一般の人にぜひ知っておいて欲しい言葉・概念として「社会受忍限度論」という言葉あります。これは一般人同士の権利侵害が争われる事例で裁判官が権利侵害を認めるかどうかを左右する重要な概念でもあります。

「社会受忍限度論」とは、一般人か生活をしていれば、その過程で他の人の権利を侵害する場面は避けられない。生活騒音や工事の騒音、臭い、喫煙、貧乏ゆすり、自分がして欲しくないこと、嫌なことを他人がしている場面などいくらでもでてきます。その場合に法的に権利侵害を認めるかどうかの基準として、「人が社会共同生活を営む上で一般通常人ならば当然受忍すべき限度を超えた場合にのみ権利侵害を認める」という概念です。

騒音でも普通に歩いている足音騒音は、例えうるさく感じでも受忍限度内ですし、夜中に大きな音量で音楽を流すのは受忍限度を超えるでしょう。昼間でも工事騒音はうるさいですが、社会通念に照らして一般人を基準にすれば我慢すべきと考えられるのでしょう(もちろん音の大きさも勘案されますが)。

無断撮影の話に戻すと、建物を風景を撮っている際に撮られたくない人が写りこんでしまっても、現在の一般人の感覚では受忍限度内と考えられるでしょう。そうでないと観光地でも誰も撮影できません。偶然の写り込みは一般的に仕方ないことだろうと考えるからこそ、一般人感覚の集約として国会は法律で、無断映り込み撮影を犯罪とは規定していないのです。

もちろん一般人の感覚が変化していき、「観光地でも無断で他人が映るのは許せない!」と大半の人が考えるようになれば、また話は変わってくるでしょう。一般人の感覚・受忍限度意識は時代とともに変わっていくものです。

人を狙って執拗に無断撮影している場合は、受忍限度を超えて民事情の不法行為は認められるでしょう。

 

犯罪となる盗撮行為をしなければ問題はないが、自己防衛は大事です。

以上から話をまとめると、特定の人を狙うのではなく、風景や特定の物撮っているなら、偶然の流れで他人が写ってしまってもそれで刑事上・民事上責任が問われることは最終的にはありません。警察を呼ばれても、何ら不審な行動をしていなければ結局嫌疑は晴れます。撮影データはすべて見せればいいだけです。

ただし、自意識過剰な人は世の中にいくらもいますし、カメラを持っているだけで不審に見る人間がいるのも現実です。撮影する場合は、勘違いで犯罪者扱いされるリスク、自称被害者との口論、警察との無用な問答の時間は避けるのが利口ですから、自己防衛を意識しておくことが大事です。

・勘違いを招きやすい場所では撮影しない(カメラを持たない)

階段下や、エスカレータなど痴漢事件が起きるような場所では、撮影関連行為は一切しない。カメラを持っていても手に持たず、カバンにしまうか横に向くように背負っておくべきです。

・人にカメラが向かないように注意する。

風景や物を撮っていたら、そこを通りがかった人がカメラのフレームに入ってくることがあります。その場合は撮影行為を止め、カメラをわざと通行人に向かない方向に向けておきます。自分が盗撮されてないとわかっていてもカメラを顔に向けられていい思いをする人はいません。男性でも同じです。

スナップ撮影などカメラ趣味の方は、人に直接カメラを向けないよう配慮するのが当然のマナーと考えておくべきでしょう。そして、その考え方が結局は自分を守ることになるでしょう。

 

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